「船室から」
前回の記事で紹介をした「Hotel CLASKA」の客室「Tatami」が完成した半年後くらいだったと思います。空室を有効利用しようという話から、次の客室の企画が始まりました。
コンセプトは、客室の名前にもなった「D.I.Y」。デザインしたデザイナーやアーティスト自らが部屋を作り込むという発想で、デザイナーの寺山紀彦くん、ぬいぐるみアーティストのさとうかよさん(2015年に逝去)に一室ずつお願いし、残り一室の707号室を私が担当しました。
当時、日本でも時々耳にするようになってきていた「サスティナブル」というキーワードを盛り込もうと考え、再生可能な素材やデッドストック品、古道具のみを使って部屋をつくることに。
まず向かったのが神奈川県の「神奈川やまと古民具骨董市」でした。そこで一目惚れしたのが木とブリキでできた古い船の玩具で、ブリッジに開けられた丸い窓を客室の窓として写し取り、その窓から「東京の夜景を眺める」という、ちょっと恥ずかしいテーマを思いついたのですが、念のため会場を一周して頭を冷やし、他の戦利品と共にいそいそと帰った記憶があります。
その他、お付き合いのある木工所や床材屋の倉庫に眠っているものやゴミ箱の中にある廃棄前の端材などを拾い上げ、それらを仕上げ材や家具の材料として使ったり、水に溶かすと再利用ができる珪藻土を壁と天井に左官したり、パズルやパッチワークのように現場で様々な素材を組み合わせては重ねることを繰り返して客室が完成しました。
部屋の名前は「Scar」。たくさんの傷が残る古い物に囲まれて過ごす一晩が、一風変わった(幽霊的なものではなく) 経験になればという思いでつけた名前です。シンボルとして飾っていた古い船の玩具は、さらに傷が増えましたが今も健在でHOIMのショールームに置かれています。
こちらの「ムービー」の導入と最後のシーンで船窓とその景色が見られます。